2013年8月5日月曜日

2014 S-Works Epic Carbon WC 29 & S-Works Stumpjumper HT Carbon WC 29

2014 オールニューモデルである、S-Works Epic Carbon WC 29 &   S-Works Stumpjumper HT Carbon WC 29 をレース会場で実際に乗り込んでみてのインプレッションです。

1周4.2km弱を15周回、62kmで1445m、距離の割に登坂も多めで、激坂登り返し、ジープロードの上り、舗装路の上りと、シッティング、ダンシング、織り交ぜてこなしました。
下りもしっかりとスピードにのる区間が多く、大きなアールのコーナー、タイトコーナー、激坂下り、路面ギャップ、木の根、岩を利用して飛べるセクションなど楽しめるとても楽しいコースでした。

ここをエピックは3時間エンデューロで、HTは前日のコース試走で十分に乗ることが出来ました。

2台を乗り比べてまず感じることは、名前の通り”WC”ワールドカップを主としたXCOレースに完全に使用目的を特化、絞り込んで作られているということです。


現在のXCO競技時間は約1時間30分、大きなドロップオフや激しいロックセクションなどと、加速、減速が繰り返される早いコース展開により、よりショーアップされて映像映するようになっています。

2時間超の競技時間、ロングクライム、長いクルージングの下りなどがあった2000年代とはもはやかなり特性が変わってきていて、選手に求められる能力も変わってきています。

素早い加速力、巧みなバイクコントロール、ジャンプなど立体的なアクションをこなすこと、それらを最大努力で行い、スタートからゴールまでそれを反復、繰り返す必要があります。

じっくり腰を据えてアクセル一定のマイペースで巡航するのではなく、コーナー、下り、ロックセクションなどではアクションを要求されつつも、ペダリングパワーはゼロになり、その分加速パートではアクセル全開にすることを、貴方は何回出来ますか?と言うことが問われるわけです。

国内で言えば、エリートクラスならば”フルダッシュ&正確なアクション”を6周回分、エキスパートならば4周回分、スポーツならば2周回分を、キッチリ出来ますか?と言うことで、それぞれにマイペースで走っている場合ではない、ということです。

この2台のバイクはまさにそれにドンピシャ合わせた性能を追求しています。
逆に言えば、長時間のマイペース走行である、”エンデュランス”的な性能、安定性性だったり、快適性だったりは、”省く”ことでピュアXCOレーサーの立ち位置に特化していると言えます。

王滝などのロングを考慮するならば、今はまだ乗っていませんが、WCではないEPIC、HTの方を選んだ方が良い可能性があるでしょう。

以上の背景を踏まえて、この2台をインプレしていきたいと思います。



EPIC 全体

HT 全体


この2台はどちらもMサイズです。

身長175cm、体重67kgの自分では、サドル位置はBBセンターから730mm、サドルは一番前にセットしピラーはマックスラインでした。
ステムは110mm、90度に交換し、スペーサーは無しというセッティングで乗りました。
ハンドル角度はまだ煮詰める余地がありましたが、テストバイクを速攻で合わせた割には概ね良好なフィットを実現できていました。

ちなみに今現在は2012モデルのスタンプジャンパーHTのLサイズでステム100mmで乗っていますが、トップチューブ長が欲しくてLサイズを選びましたが、ホイールそのものが持つ安定性を考慮すれば、29バイクはホイールベースが短ければ短いほど、レースバイクとしては良いだろうと言わざるを得ません。
29ホイールの長所を活かすも、短所を無くすも、フレームの設計、サスペンション特性とのマッチング次第です。

大きめを選ぶとレースには向かないですが、小さめもセッティングが厳しいかもしれません。
ジャストサイズを選ぶことを、自分はオススメします。


フレーム、サスペンションの違い以外はほぼどちらも同じ仕様になっています。
詳しくは後述しますが、性能の狙いも、”走りの印象”もほぼ同じように感じます。

そう、この2台は限りなく、性能、特性が近づいています。


レースバイクとして必要な事は何か?

コースに合わせたクイックなハンドリング、乗り手のテクニックを遅れることなく実現する反応性、高いパワーで瞬時にトップスピードの乗る加速性、荒れた路面でもトラクションを確保する路面追従性、いずれも高いレベルで近いバランスにまとまっているのです。

そう、レーサーの求めるもの、そのものなのです。

29バイクでは、そのレーサーの求める要素の中で、加速の鈍さ、コーナーでの倒し込みの遅さ、傾きを維持する重さ、タイトターンの細かな旋回性、前後への荷重抜重の動きづらさ、
そういった29ホイールのネガといわれる部分が程度問題こそあれ、わずかでも感じるところは正直残っていました。大きフレームや、間延びしたディメンションのフレームに乗ると尚更です。

しかし、この2台では、もはやそれを感じること、ネガだと評価することは難しいでしょう。

レースにおける、それも中~後半に起こる、加速の鈍さ、ハンドリングの遅れ、荷重抜重の失敗、は乗り手が起こしているという当たり前の事実をシンプルに伝えてきます。

そう、前述の選手としてより速く走れる能力を有する人には、より速く乗れるバイクであり、そうでない人はその人の能力なりでしか乗れないバイクとなっています。

まさに”WC”の名に相応しいと言わざるを得ません。


たわみ、鈍さ、適度な重さ、などは僅かに反応を遅らせる代わりに、乗り手のテクニックの遅れをカバーして路面との接地を残し、安定を保つ、という効果があります。

そして、リア・サスペンションも同様であり、ジャンプなど大きな衝撃の吸収以外にも、乗り手の挙動にかかわらず常に路面を捉え続けようとしてくれているのです。

これらを徹底に締め上げ、排除したのがWCなのです。

この2台を乗り分ける、あるいは選び分けるには、”コース状況”にジャンプ、ドロップオフ、大きな立体的なセクションが含まれるか否かということ、そして、”乗り手”がリアの挙動をゴールまで確実にコントロール出来るか否か、その2つを考慮して決定することになります。

2013エピックとHTも今乗っても良いモデルだと思います。それは万人が乗りこなしやすい高性能ということが感じられるからです。逆に言えば、適度なたわみ、ゆとり、遅れ、があったということです。

乗りこなしやすさの目安として個人的な感覚は次の通りになります。

2013EPIC > 2013HT > 2014EPIC WC > 2014HT WC

そして速く走りやすいのは次のとおりです。

2013EPIC < 2013HT < 2014EPIC WC < 2014HT WC

まあ、これは極端な物言いではありますが、ご自身の目的と能力に応じて選んで欲しいと思います。

そして、”NOT WC”モデルの存在も忘れてはなりません。こちらは、きっとこのWCのピーキーな部分を僅かに抑えることで、乗りこなしやすさを拡充していると想像しています。

こちらが王滝、長時間エンデューロ、脚力に自信の持てない向きにはマッチしているはず。
個人的には、今の自分にはそのモデルが合っていると思っています。
王滝にも出るし、トレイルも楽しみたいし、最大加速のインターバルトレーニングもしないので、きっと合っているはずです。

また、シャーシ、基本設計自体は同じですから、29のネガを徹底的になくしたメリットは十二分にあるはずですし、素早く軽い操作性に安定が加われば、2時間以上の長時間ライドにはうってつけとなるはずです。

割り切ったからこそ、出来たカリカリのレース性能がWCの魅力だといえます。

では、細かく見て行きましょう。

EPIC BB周り

WCマークが輝くシートステーは完全にFメカがつかない四角形状で剛性をガチガチに上げています。
BBダウンチューブに繋がる接合でも剛性重視が窺い知れます。


HT BB周り

HTもボリュームを持たせて、図太いチェーンステーでパワー伝達を最大限に狙っています。
こちらはFメカは取り付けられそうですが、WCではそれは必要としていません。

なぜならフロントはシングルギアがWCレースの標準となっているからです。

EPIC クランク周り

HT クランク周り

クランク周りはどちらも同一で、SRM11スピードを前提とした設計になっています。
極太で4アームまで一体のまさに剛性の塊となった新型クランクはカッチカチです。

ギアは32Tになっていて、レースのためにトレーニングしているならばこれくらで調度良いですよね、と云わんばかりに当たり前のように備わっています。

チェーンとギアが、ピンごとにしっかり噛み合うようにオス・メスの設計になっていて、BB、クランク、ギア板、チェーンとまるでピストのようにソリッドで一体感のあるペダリング感は、クルクル回してないで、ガンガン漕ごうと訴えかけてきます。

遊びのないダイレクトなそのフィーリングはレースでは最高です。

EPIC チェーンステー

EPICはチェーンステーが超極太になっています。
これによりギア数に制限が出てきますが(軽いギアがつかない)、その加速性と反応性はHT並となっています。

ブレインのセッティングも広範囲なトレイル向きなセッティングまでソフトにはならずに、ハードな範囲での狭い範囲での微調整が出来るようになっています。細かなところまでWC仕様です。



EPICヘッド周り

HTヘッド周り

ヘッド周りはどちらもほぼ同一で、ダウンチューブとトップチューブの接合面の幅と範囲を大きくとって一体化していて圧倒的な剛性を狙っています。

Fサスの肩はカーボンでこれまた硬いし、軽くも出来ています。

ヘッドまわりは乗っていてもなんの不安もラグも感じません。サスペンションの動く方向と量だけが正確に動き、それ以外は自分のブレ、肘と肩の動きの悪さ、なんだとよく分かります。

倒しこんでも、無理やり切り返しても、激坂で荒れた路面でのハードなブレーキでも、微塵もびくともしません。

EPIC リア周り

HT リア周り

リア周りはどちらも142+のスルーアクスルになりました。エピックは以前からでHTはこのモデルからの変更です。
HTはもうコレはターマックを超えた!といっていいほどの剛性感です。ガチガチといっていいでしょう。
そのおかげでねじれ、たわみはどちらもやはり微塵もびくともしません。

BB、ダウンチューブ、ヘッド、シートステーからのリアバックと徹底的に剛性重視でレーサーの求める加速性に応えています。

HTの加速性は、今後、ロードもスルーアクスルにしたほうが良いのではないか、早晩そうなるのではないか、という新しい可能性を感じさせるほどのスピードの乗りです。

EPICもこれに程近いシャープ感がありますが、それはサスペンションセッティング次第といったところもあります。

いずれにせよ、この加速性に不満を漏らす方は、1000w超を常時かけられるような稀な存在だけでしょう。


HT トップ&シートステー

もちろんMTBは硬ければよい訳ではありませんから、その辺りはこのシートステーとトップチューブでバランスしています。

異様に細いシートステーは路面追従性を極限まで高め、エピックのハードセッティングのような感覚でギャップを通過出来ます。

トップチューブも同様に薄くつくられていて(幅は広く強さは確保)、乗り手に伝わる振動とその疲労を最小限に留めてくれます。
この最小限というのは、1.5時間ならば問題ないよね、という程度ではありますが。

バックがねじれたわまないことで、シートステーのしなる方向にだけ突き上げが作用してくれますので、大きなギャップではサス的効果はかなり高いレベルで感じられますし、実際に上手くなったかのような錯覚すら与えてくれます。

しかし、細かな木の根や岩、それが不規則なリズムの繰り返しだったりすると、ダンパーのないカーボンの素早い戻りに、膝の荷重抜重が付いていかず遅れを取ると、タイミングが狂い、弾かれてしまいます。同様に、バイクが少し傾いていたりすると、さらに上手くテクニックを駆使しないとリアがすぐに流れてしまいます。

上手い人には造作も無い事なのでしょうが、疲れていても同じようにコントロール出来るかどうか、そこも選びどころの一つでしょう。
これもまた自分がピーキーだと感じる所為です。



Fサスはどちらも共用の15mmスルーアクスルのSIDブレインフェード仕様になっています。
剛性も高く、ハンドリングのキレのよさにも大きく貢献しているようです。

ストローク設定はそれぞれ最適化されていて、EPICWCは95mm(通常は100mm)、HTはSサイズは80mm、Mサイズ以上は90mmとなってます。

HT Sサイズの80mmは低いハンドルポジションの実現も狙っているのでしょう。

サスは軽く、コーテングされたインナーチューブ効果もあり、非常にスムーズなストロークです。
ストローク量も29ホイールの効果もあり、必要にして十分だと感じました。

ただし、3時間近くにあると腕の疲労で動きが鈍くなるので、もう少し余裕があったほうが結果的にブレーキを少なくして、速く走れる可能性も感じました。これはノーマルEPICに期待ですね。



ホイールも同一仕様です。

新設計のROVALコントロールSLで幅が広くなり、より強く、より軽くなるとともに、タイヤの接地形状を最適化して、路面グリップをより良くしてくれています。

この圧倒的なグリップと安定感は29ホイールならではで、ゆえにあれだけクイックでピーキーなフレーム設計ができたのだと思います。

全体バランスは本当に高く、完成されています。



このリムは写真で見ても分かる通り、丸い半円形状をしています。
タイヤの半円とあわせるとまるで断面は雪だるまのようになっています。

このリムはなんと内側のフックがない構造になっていて、この形状とタイヤの内圧で結合するようになっています。

今回は1.7気圧という低圧で使いましたが、よれたり、外れそうな不安感もなく、よりエアボリュームを感じさせてくれました。

むしろ後半、疲れた自分自身の反応速度が問題で、加速の踏み出しが鈍る、ブレーキのリリースが遅れる、倒しこみが甘くラインが膨らむ、という乗り手に起因してしまいましたが、
それでも久々のMTBで上手くなった気がしたのは、切れよく素早い反応とナチュラルで素直な操作性のおかげです。

軽い加速性はこのホイールの効果も良く影響しているでしょう。ホイール単体性能もかなり高いはずです。



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ただし、ただしインプレをよく読み、ご自身にあった用法、用量を守り正しくお使いくださいね~w